太ももや足の付根の近く(鼠径部)に、柔らかい膨らみを感じることはありませんか。立ったり腹圧をかけた時に鼠径部に膨らみができ、横になったり腹圧がかからない状態になると自然と消えるという症状を繰り返していませんか。鼠径部の筋肉と靭帯で囲まれる三角形の部分から腸管が膨隆してくる状態を、鼠径ヘルニアと言います。痛みがないうちは、特に何もせず経過観察をするケースが多いようですが、症状が進み、膨隆した腸管が戻らなくなるような状態が続くと、手術が必要となります。では、産後の鼠径ヘルニアの原因や症状、次の出産への影響や対処法について調べてみましょう。
鼠径ヘルニアの手術をせずに妊娠・出産できる?
出産後に鼠径ヘルニアになってしまいました。あまり間をあけずに二人目を授かりたいと思っているのですが、ヘルニアをこのまま放置したまま、自然分娩できるのでしょうか?ヘルニアの手術を優先しなければならないとしたら、次の妊娠までどれくらい期間をおかなければならないのでしょうか?また、出産後に再発の危険性はないのでしょか?
鼠径ヘルニアの症状は?
鼠径ヘルニアとは、太ももや足の付け根付近(鼠径部)に柔らかいふくらみできる病気です。そもそもヘルニアとは、臓器が正しい位置からはみだして体の隙間や弱い部分から出てくるもので、鼠径部にできるから「鼠径ヘルニア」といいます。腸が筋肉をかきわけて、太ももの付け根の表面近くまで飛び出してしまうことを一般に「脱腸」と呼んでいます。大腸が入り込む例はまれで、小腸の場合がほとんどです。
腸が出てしまった場所によって、外鼠径ヘルニア、内鼠径ヘルニア、大腿ヘルニアの3つに分類されています。
- 外鼠径ヘルニア
腹壁の外側に出てしまう、もっとも一般的な鼠径ヘルニア。乳幼児から高齢者まで広く見られます。 - 内鼠径ヘルニア
腸が鼠径後方の腹壁から突き出てしまうヘルニア。主に中高年の男性に多く見られます。 - 大腿ヘルニア
特に産後の女性に多く見られ、鼠径部の下、足の付け根の血管の外側へ腸が入り込んでしまいます。合併症も引き起こしやすく、命に関わるため早急な治療が必要です。
鼠径ヘルニアのふくらみの大きさは人それぞれですが、ピンポン玉や卵くらいにまでなることもあります。さわってみると柔らかく感じることが多く、初期の段階では指で押したり体を横にしたりすると引っ込んでしまいます。
はじめは痛くありませんが、放置していると押しても引っ込まなくなってしまい、痛みも伴うようになって腸閉塞や腹膜炎などを起こしやすくなります。刺激されるような痛みを感じ、息苦しさやお腹が張っている感じをうけ、長時間立つことすら困難になります。この段階に達すると、日常生活にも支障をきたすため、病院で診断を受ける方がほとんどです。しかし、放置してさらに症状が悪化すると、嵌頓(かんとん)状態になります。嵌頓状態とは、飛び出した腸が筋肉で締め付けられてしまう状態のことです。患部の腸には血液が届かなくなり、壊死が始まります。最悪の場合、命にも関わるため、症状を感じたらすぐに診察を受けましょう。
鼠径ヘルニアの原因は?
鼠径ヘルニアは、鼠径部の筋肉の緩み、内部からの圧力が原因です。内側からなんらかの圧力が加わることで、筋肉の緩んだ部分から、腸が飛び出してしまいます。
加齢などが原因で筋膜が弱くなると、鼠径管の入り口が緩んで鼠径管周辺にすきまができます。おなかに力が入ってすきまが広がると、そのすきまから腹膜が出てくるようになり、次第に袋状(ヘルニア嚢)に伸びて鼠径管内を通り脱出します。
ヘルニア嚢は一度できるとなくならないため、お腹に力を入れるとヘルニア嚢の中に腸などが入り込んでくるようになり、鼠径ヘルニアとなります。女性に多いのが、大腿ヘルニアです。特に出産後の女性に多いのが特徴です。鼠径部の下、足への血管の脇へはみ出すヘルニアです。最も嵌頓を起こしやすいヘルニアなので早急に治療が必要です。
鼠径ヘルニアの対処法は?
鼠径ヘルニアの治療法は「手術」です。一度、鼠径ヘルニアになってしまったら、自然治癒することはありません。薬や安静、保存療法といった治療方法での完治もありえません。手術によって、腸が飛び出してくる部分に蓋をする必要があります。人工補強材の開発技術の進歩により、身体にかかる負担が軽減され、腹腔鏡による手術も行われており、軽度のものであれば、日帰り手術が可能となりました。
鼠径ヘルニアのまま妊娠出産は大丈夫?
妊娠中は大きくなった子宮によって、常に腹圧が高くなっているので、鼠径ヘルニアが起こりやすくなっています。特に痛みがなく、自然と元に戻るようであれば分娩まで様子をみることができますが、嵌頓状態のヘルニアまで症状が進んでいる場合、膨隆した腸管が元に戻らなくなり、腸閉塞を引き起こして腹痛や嘔吐といった症状がでてくると、手術をすることになります。このような状態が続くと、組織が壊死してしまい、腹膜炎に陥ることもなるので注意が必要です。
原因は妊娠中の負担に加えて、分娩中の負担が加わったと考えられます。このままの状態で第二子の妊娠をした場合、症状はさらに悪化すると予想されます。嵌頓の状態になる危険がないとはいえませんので、次の妊娠までにヘルニアの手術をお受けになることをおすすめします。術後の回復が順調であれば、術後半年ほど経過すれば、妊娠に影響はないと考えられます。
まとめ
妊娠や出産時に、腹圧が高くなることで鼠径ヘルニアなるママが多いようです。日常生活に支障がないうちは、どうしても後回しになってしまうヘルニアですが、いつ、症状が深刻になり、腸閉塞などを引き起こすか分かりません。早めに医師に相談することが一番ですが、日常生活でできる予防法も実践してみてはいかがですか。
・重いものを持ち上げるときには、急激に腹圧がかかるのを防ぐため、大きく息をはきながらゆっくりと行う。
・トイレでいきまないで済むように、便秘を解消する。
・適度に運動をして、腹圧を軽減させ腸の動きを良くすることで、肥満を解消する。
・くしゃみや咳は座って支えがある状態でする。(ぎっくり腰対策にもなります)